今朝方、いやに冷え込んだのは、
昼間の穏やかな日和を迎えるための予兆だったのだろう。
白いところをより目映く弾けさせている、
それは優しい陽だまりの中。
仔猫のぽわぽわした毛並みを、
ますますのこと甘く温めている冬の陽射しは、
見ているこちらにまで、ほわりとした温みをくれるよう。
同じ猫同士のお昼寝を、まさかに邪魔するのも大人げのないこと。
しょうことなしに諦めたか、
そちらへ向けていた視線をようやっと外した島田せんせえ。
資料整理も資産管理も、この一家に関わる事務の全てを、
専属弁護士レベルで統括している敏腕秘書殿が、
今日は だが…PCではないものをいじっているのに気がついて。
「七郎次、それはテーブルセンターか?」
綺麗な丸いの、編み進めるのへ、
洒落た趣味を増やしたものよと訊いたところが。
甘い赤みのかかった金の針を操る手を、
ひたりと止めた彼が言うには、
「…一応、久蔵のポンチョなんですが。」
「う…。」
小さな久蔵がカンナ村からご機嫌さんでかぶって帰って来たのが、
真っ赤なニットのお帽子で。
向こうのお国のシチロージさんが、
半日かからず編んでくださったという、その逸品が何よりの証拠。
どうやらカンナ村の素材で作ったものは、
和子の姿の久蔵にも着られるらしいと判ったはいいが、
残念ながら、こちらの七郎次には編み物の心得はなく。
たんと譲っていただいた毛糸を眺めて、
しょんもりと肩を落としていたのもほんの2、3日の話。
かわいい我が子へ、待望の愛らしい装い、
させられるものならばとの一念発起。
初心者向けということで、
かぎ針編みでのサーキュレットタイプのショールに、
挑戦中の七郎次さんだったらしいのにね。
これはしまった、選りにも選ってと、
そこはさすがに失言を悔いた勘兵衛だったのへ、
「いや、その…。」
「いんですよぉ。最初から器用にこなせるお人はいない、でしょう?」
こちらこそ、さすがは そんじょそこいらの青二才とは違う、
古女房と呼ばれて相応しい年季というもの重ねておいでの七郎次。
この壮年が、気の利いた追従を言える人物じゃあないことの方をこそ、
重々知っているがゆえ。
お膝の上へと乗っけた編み物、
ちょみっと握りしめたりしたのも いっときのこと。
「向こうのシチロージさんは、どうやらずんと家庭的なお人らしいですね。」
付け焼き刃では全然敵わないなぁと、
眉を下げての苦笑を浮かべた七郎次だったりしたのへ。
『でもね、怒ると“おにのふくかん”になるんだよ?』
何なのかは俺も知らないけど、
物凄く強いカンベエが、
なのに ぶるるって肩を震わしたり姿勢が良くなったりするから、
とっても怖いものならしい…と、
キュウゾウくんが言っていたこと思い出した勘兵衛だったが、
“…それをも言ってやった方がよいのかの。”
こんな間合いで告げたところで、
下手な慰め、しかも誰かを下げることで持ち上げられてもと、
自分なぞよりもそういった融通のようなものに聡い彼が、
素直に浮き上がってくれる筈もなかろうて。
ああそうだね、自分だってこの彼のこと、
こんなにも深く知っている。
物思いの行方や落胆したならどんな風に落ち込むのか、
錯綜した想いの行き着く先や、
笑顔の奥、素顔の在り処までを知っている。
どうにも朴念仁な自分でさえそうなのだから、
七郎次の側からは、
さぞかし事細かな把握をされているのだろうなと偲ばれて。
「? いかがされました?」
「いや…。」
あわわと焦っていたものが、ふと不意に。
和んだようなお顔になっての目許を細め、
しみじみとこちらを眺めるばかりとなった勘兵衛であり。
あれれ? 何かどこか、微笑ましいことよと彼へ思わせるよな、
可笑しいカッコでもしているかしらと。
自分の居住まいをちらと見回した七郎次がまた、
そんな所作の中、どこか幼いお顔をしたものだから。
「……。(くく…)」
「何ですよお。///////」
男臭いお顔を和ませて、優しく微笑うそのお顔が、
今度は七郎次を落ち着かせない。
直截には大して何にも語らぬままの、
こんな些細な表情や視線のやり取りだけで、
温かい想いを差し出し合ったの、十分なほど判り合えてるところが、
熟年夫婦の妙ということか。
……の割に、女房は“ヲトメ返り”の最中でもありますが。(笑)
“だ…誰がヲトメ返りしてるですって?////////”
大体“ヲトメ”って何ですか、ヲトメって、と。
そこへ引っ掛かってるのか、恋女房。
熟年夫婦なのは認めるらしいお二人だというところで、
(「う〜〜〜。//////」)
気を取り直しての仕切り直しか、
「そうそう、勘兵衛様。
庭の奥向きにある祠に、最近お供え物をしておいでですか?」
今でこそこうしてリビングに腰を落ち着けているものの、
庭へは彼も出てみたものか、そんなお話を唐突に振ってくる。
問われた勘兵衛からは、だが、
「? 何の話だ?」
覚えのないことという応じが返って来たので、
ああそれじゃあ…と。
何にへかの合点が、それだけでいったらしい七郎次であり。
「いえね、あの祠に時折、野菊や干し芋が供えてあるのですよ。」
「それは…。」
ここでやっとのこと、勘兵衛へも話が通じたようであり。
そんなお顔だと見届けてから、にこりと頬笑んだ七郎次、
「神仏というものへは、
信心も無しという中途半端に触るものじゃあないからと。
そんな勘兵衛様のお言いつけもあって、
放って置いたような あの祠だったのでしたが。
キュウゾウくんの素直な心根からすれば、
ああまで祀られてた以上、
誰かの信心が染みていて尊いということになるのでしょうね。」
だからどうしろとまでは言わない彼だが、
「…そうか。」
これもまた、勘兵衛にはきちんと伝わったようであり。
「向こうのキュウゾウが大事と思うもの、
こうまで間近におる我らが蔑ろにしていては、
それこそ罰が当たるやも知れぬな。」
深色の目許をたわめさせ、くすんと微笑った勘兵衛へ。
七郎次もまた“ふふ”と口許ほころばせ。
深くは訊かぬが本意は承知と、
お膝 手元に置いていた、
淡い紅色のテーブ…もとえ、ポンチョの続きを編み始める。
勿論のこと、昨夜のお庭での一部始終なぞ、
まるきり知らぬ 大人二人が見やった先の。
クリスマスツリーのイルミネーションやグラスボールより、
多彩なまでの新しいこと、
何だか色々、まだまだ起こりそな、
そんなナイショをあちこちに散りばめて。
今のところは穏やかな、
冬の初めの静かな昼下がりだったり、するのであった。
〜Fine〜 09.12.02.
*ひいひい言いつつこれを書きながら見ていた“いいとも”で。
知ったかぶりのコーナーに、マンチカンという問題が出てましてね。
ええそう、足の短いところが愛らしい、
今 一番人気の猫ちゃんのことで。
それを解説するのにと、ベスト3が紹介されたのですけれど、
ひょえ〜〜〜、メインクーンが今時は2位なのですか。
ちょっと前までは、名前さえ知られてなかったのにねぇ。
*それはともかく。
……そういや、12月3日は“妻の日”でしたね。
1月31日という“いい妻の日”があるのに、
何でこんな間近く2つもあるのかなと、
知ったばかりの昨年は、思わんでもなかったもんですが。(苦笑)
*それもともかく。(苦笑)
久し振りの大人Ver.の久蔵さんを書きたいなと思ってたところへ、
某様が美味しいネタを“へいお待ち♪”とお届け下さりvv
あれもこれもと欲張ったお陰様、
何だか一杯詰め込んだお話になってしまっちゃいまして。
ここから何かが起きるかどうかは、今のところはまだ未定ですが、
土地神様との齟齬の件は、
向こうのキュウゾウくんのお陰で、
微妙ながらも修復されそな気配というところでしょうか?
「修復というのは、元は友好関係にあったような場合を言うのでは?」
「〜〜〜。」
「だったら表現がおかしいと、こやつも言うておるが。」
…兵庫さん、あなたが話をまぜっ返さない。
めるふぉvv 


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